朝倉かすみ『平場の月』は、中年になった男女が再び出会う、静かで深い愛の物語。
2018年の刊行以来、多くの読者の心に残り続けてきた名作です。
2025年11月14日には、映画『平場の月』が公開予定。
人生の後半を生きる人々の「もう一度、誰かを想う」という切なさを、瑞々しく描き出します。
人生のどこかで、一度だけ心の底から誰かを想ったことがある。
その想いは、時間とともに薄れるものだと思っていた。けれど、ある日ふとした風景のなかで、もう会うことはないはずの人の声がよみがえる。そんな瞬間が、誰にでも訪れるのかもしれない。
朝倉かすみ『平場の月』を読みながら、静かな痛みのような懐かしさが胸を満たした。
中学時代の同級生だった男女が、五十を過ぎて再び出会う。
そこには劇的な再会も、約束された救いもない。ただ、人生の折り返しを過ぎた者たちの、ひそやかな光がある。
この物語を読み進めるうちに、私は思った。
「平場」という名のとおり、特別ではない日々の中にこそ、人は最も深い哀しみと優しさを見つけるのだと。
そして、その光はきっと、過去に置き去りにしてきた誰かへと、いまも届いている。
『平場の月』より ──静かな再会の光
あの頃のままではいられないと
言い聞かせながらも
心の奥では、あの声を待っていた
ふと、ふたりの時間が再び重なったとき
誰も見ていない場所で
「生きててくれてよかった」と思った
人生は大きな物語を望まない
平凡な場所にこそ
月のような光が差すと知ったから
愛していたことを
もう伝えなくてもいい
ただ、静かに寄り添うだけで満たされた
死は終わりではなかった
思い出の中で
いまも、彼女は光っている
関連情報
- 📘 書籍:朝倉かすみ『平場の月』(文藝春秋、2018年)
- 🎬 映画公開:2025年11月14日 全国ロードショー
- 🔗 公式サイト:hirabanotsuki.jp
コメント