夜のさざなみ

声にはしない
風にも漏らさない
けれど 確かに揺れている

暮れかけた空の下
ひとすじ 光の道が
海の奥からこちらを見ていた

誰にも告げぬまま
心の奥に灯された
ささやかな焚き火のように

消えたふりをして
じっと 息をひそめて
やがて 灰の奥で
また 赤く 熱を孕む

名もなき往還の波が
夜の浜辺をぬらしては
そっと 足跡をさらってゆく

誰にも伝えないまま、心の奥でそっと揺れている想いがあります。
言葉にしないと決めたのでも、忘れたのでもなく、
ただ静かに、ひとりで抱えているだけ。

暮れかけた空と、海の奥から差す光は、
どこか遠くにある記憶や気持ちが、
いまもなお、こちらを見つめていることを教えてくれます。

すっかり消えたように見えても、
その想いは灰の奥でじっと息を潜め、
やがてまた、わずかに熱を帯びて灯り始める。

夜の波が足跡をさらっていくように、
過去は形を失っていくけれど、
そのぬくもりは、確かに残っている。

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