2025年– date –
-
『平場の月』より ──生きているふり
今のこと
なるべくずーっとなんとかやってるように思わせたいじゃん彼女はそう言った 死を隠すためじゃない誰かの心に 希望を残すためだった約束を果たせない代わりに 祈りを残したかった 別れたことにしてもいいそれでも どこかで生きているように彼の世界を少... -
『平場の月』より ──あのさ、青砥
今のこと
あのさ――そのあとに続く言葉を彼女は胸の奥でほどいていたでも 彼は待てなかった言葉の方を先に出してしまったその一秒の間にふたりの未来はすれ違った月の光のように 静かに 青砥はその夜、須藤の沈黙の中にあった“最後のサイン”を見逃した。けれど、彼... -
朝倉かすみの中に流れる三つの時間
今のこと
──再会・待つ・老い── 人生の中で、同じ時間を生きていたはずの人と、いつのまにか遠く離れてしまうことがある。 思い出の中では、あの日のまま微笑んでいるのに、現実ではもう会うこともない。 それでも、人は心のどこかで、その人の幸せを祈りつづけ... -
『平場の月』──静かな再会の光
今のこと
朝倉かすみ『平場の月』は、中年になった男女が再び出会う、静かで深い愛の物語。 2018年の刊行以来、多くの読者の心に残り続けてきた名作です。 2025年11月14日には、映画『平場の月』が公開予定。 人生の後半を生きる人々の「もう一度、誰かを想う... -
思考する人が少数派になった時代に
今のこと
思考する人が少数派になった時代に 気づけば、ゆっくり考える人がめっきり減りました。すぐに検索し、すぐに答えを出す。そんな社会では、「考える」より「反応する」ことが評価されます。けれども、私たちが本当に生きていくうえで必要なのは、正解より... -
静かな朝のはじまりに
今のこと
朝、少しだけ早起きができた日には、小さなご褒美がある。 それは、まだ人通りもまばらな時間帯に、窓から差し込む柔らかな光と、淹れたてのコーヒーの香りに包まれること。 カップを手に持ち、まだ少し眠たげな頭のまま、窓辺に腰掛けて外を眺める。遠く... -
風の音にまかせて
今のこと
午前の光に、風が少し混じっていた。その風のなかに、なぜか遠い記憶が混ざっているような気がした。 まだ夏のはじまり。なのに、どこか、懐かしさを誘う空の匂い。 何も起きていないのに、何かを思い出しそうになる。でも、それが何かまでは、はっきりし... -
空白(色をひとしずく)
今のこと
うごかない空に音のない風がとおる 指先にはなにひとつ残っていないのにどこかが すこしだけ 冷たい 言葉も かたちもないままひとつ 息をついた それだけのことがやけに 遠くまでひびいていく ――若かったころの理由もなく ふと胸に満ちた あの気持... -
静かな旅へ
今のこと
この週末、妻とふたりで、ある場所へ出かけます。ずっと昔、心に刻まれた風景が眠っている場所です。 今はただ、旅そのものが楽しみで、少し遠回りして風を感じたり、ふたりで静かな食事をしたり、そんな時間が愛おしいと思える歳になりました。 けれど、... -
正念と、将来を考えることについて
今のこと
「正念」という言葉に触れて、少し考えた。 『葉隠』の中で「正念」とは、「今」に全身全霊を注ぎ、気を抜かずに生きることを意味している。雑念に心を奪われず、目の前のことにまっすぐ向き合う。心が澄み、意志が定まり、そこに迷いはない。そんな状...
12