風の音にまかせて

午前の光に、風が少し混じっていた。
その風のなかに、なぜか遠い記憶が混ざっているような気がした。

まだ夏のはじまり。
なのに、どこか、懐かしさを誘う空の匂い。

何も起きていないのに、
何かを思い出しそうになる。
でも、それが何かまでは、はっきりしない。

急ぎ足の毎日も、立ち止まる理由が見つからない日も、
こうして、ふと手を止めたときにだけ、自分の声が聞こえる。

あのとき言わなかった言葉、
今はもう思い出せない旋律、
すれ違って、そのまま戻らなかったものたち。

全部、風の音にまかせて、いまはそっと置いておく。
言葉にできないものは、
言葉にしないままで、ちゃんと胸の中にあるから。

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