遥かなるときへ目を閉じる

雨はほとんどやんで
雲の下で 街は濡れたまま静かに息をひそめている
そんな 灰色の光がさすころ
ふと 遠くの記憶が
呼びかけもせずに 胸の内に降りてきた

誰かの笑顔のぬくもりに似た
かすかな光の中に浮かぶ輪郭
どこかで見た気がする風景の切れ端
曖昧なまま 胸の奥に残る匂いと音と空気

全部、もうどこにもないのに
なぜだろう
こんな空の下では 少しだけ会える気がする

ひとひらの記憶が心に触れ
静かにさざなみを立てる
そして 僕は
たったひとつの感情を抱いて
遥かなるときへ 目を閉じる

「全部、もうどこにもないのに」
人も、モノも時間の経過により、変化していく。
だから、あのとき居たあの人はもういないし、あのときあったあのモノももうない。

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