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静かな朝のはじまりに
朝、少しだけ早起きができた日には、小さなご褒美がある。 それは、まだ人通りもまばらな時間帯に、窓から差し込む柔らかな光と、淹れたてのコーヒーの香りに包まれること。 カップを手に持ち、まだ少し眠たげな頭のまま、窓辺に腰掛けて外を眺める。遠く... -
風の音にまかせて
午前の光に、風が少し混じっていた。その風のなかに、なぜか遠い記憶が混ざっているような気がした。 まだ夏のはじまり。なのに、どこか、懐かしさを誘う空の匂い。 何も起きていないのに、何かを思い出しそうになる。でも、それが何かまでは、はっきりし... -
空白(色をひとしずく)
うごかない空に音のない風がとおる 指先にはなにひとつ残っていないのにどこかが すこしだけ 冷たい 言葉も かたちもないままひとつ 息をついた それだけのことがやけに 遠くまでひびいていく ――若かったころの理由もなく ふと胸に満ちた あの気持... -
静かな旅へ
この週末、妻とふたりで、ある場所へ出かけます。ずっと昔、心に刻まれた風景が眠っている場所です。 今はただ、旅そのものが楽しみで、少し遠回りして風を感じたり、ふたりで静かな食事をしたり、そんな時間が愛おしいと思える歳になりました。 けれど、... -
正念と、将来を考えることについて
「正念」という言葉に触れて、少し考えた。 『葉隠』の中で「正念」とは、「今」に全身全霊を注ぎ、気を抜かずに生きることを意味している。雑念に心を奪われず、目の前のことにまっすぐ向き合う。心が澄み、意志が定まり、そこに迷いはない。そんな状... -
煙となりて
伝えたい言葉がひとつ、またひとつ 胸の奥で静かに眠る それを声にはしない風にほどける夢のようにただ、生き様の中に忍ばせておく かつての君にもう会うことはないとしてもこの道の先で僕がいなくなったあと どこかの空に昇る 白い煙がほんの一瞬君のま... -
あの夜のまま
ふとした瞬間に、過去の気持ちが思いがけずよみがえることがあります。もう忘れたと思っていたのに、胸の奥ではずっと静かに息づいていた想い。それは、いつか誰かと過ごした夜の景色かもしれません。 ---(詩)--- 思い出さなくなって どれくらい経った... -
夜のさざなみ
声にはしない風にも漏らさないけれど 確かに揺れている 暮れかけた空の下ひとすじ 光の道が海の奥からこちらを見ていた 誰にも告げぬまま心の奥に灯されたささやかな焚き火のように 消えたふりをしてじっと 息をひそめてやがて 灰の奥でまた 赤く 熱... -
一生懸命に生きるということ
親からもらった、たった一度きりの人生。その限られた時間をどう生きるか――。この問いは、誰にとっても避けられないものでありながら、答えの出ないまま日々に埋もれてしまいがちだ。 最近、三島由紀夫の『葉隠入門』を読み進める中で、私は「死を覚悟して... -
今日の風
なぜだろう今日の風は どこか懐かしくて忘れたはずの名前を 胸の奥で呼ぶようだった 誰にも届かない声それでも空へ放つと少しだけ 心が軽くなる気がした
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